THE PRETENDER
(ザ・プリテンダー)

Jackson Browne

The pretender

The Fuse
Your Bright Baby Blues
Linda Paloma
Here Come Those Tears Again
The Only Child
Daddy's Tune
Sleep's Dark And Silent Gate
The Pretender

1976年
Elektra/Asylum/Nonesuch Records
Photo by Tom Kelley Studio

ジャクソン・ブラウンは元々シンガーよりはソングライターとして評価されたアーティストである。最初の3枚のアルバムはみずみずしい感性を持つシンガー・ソングライターがそのスタイルを完成させるステップだった。 しかしこのアルバムは、彼が詩人としての繊細さはそのままに、パフォーマーとして力強い唄声を聞かせてくれた。 「レイト・フォー・ザ・スカイ」−「プリテンダー」−「孤独なランナー」という3枚のアルバムは、彼がロッカーとなる軌跡だったと言える。

前作ではバックに彼のツアー・バンドを起用し、親密な音を出すことに成功していたが、このアルバムではウェスト・コーストの凄腕たちが名を連ね、よりダイナミックなサウンドとなっている。
彼らスタジオ・ミュージシャンは80年代に入るとあまりに多くのレコードに登場し「産業ロック」の画一化を招いた元凶のひとつとされる。そしてジャクソンのアルバムも80年代以降は唄はともかくサウンド的には個性が薄くなってしまう。しかし彼らは本来はこうした木彫りの様なしっかりした手触りの音を出すミュージシャンだったはずなのだ。
中でも特筆すべきなのは、リズム・セクションのタイトさである。ドラムがジェフ・ポーカロやラス・カンケルにジム・ゴードンで、ベースがリー・スクラーにチャック・レイニー、そしてボブ・グラブという「質実剛健」の見本の様なバッキングである。 この上に、デヴィッド・リンドレーやローウェル・ジョージのスライド・ギターが伸びやかに動き回る。 まさに音楽が「Live」(生きて)いる瞬間が収められている。

プロデュースはブルース・スプリングスティーンのプロデューサーであるジョン・ランドーで、ジャクソンの繊細さを殺さずに、かつ力強さを引き出すことに成功している。

ジャクソンはとても真面目なアーティストである。 彼の唄は、塔の上で誰にも振り返られないまま警鐘を打ち鳴らし続ける男を思わせる。 このアルバムの制作途中に妻が自殺を図り、結局死んでしまったことは歌詞に影を投げかけているが、それはいわゆる「暗い」ものではなくひたすら「真面目」さを感じさせるのだ。 もしこのレコードを聞く機会があれば、その詞の世界に気付いて欲しい。 "The Fuse"や"Sleep's Dark and Silent Gate"、そしてタイトル曲は、メロディのついた「詩」に他ならない。

"フリーウェイの陰に家を借りよう。 毎日弁当をこしらえて、働きに出かける。 日が暮れたら家に帰り、疲れた体を横たえる。 そしてまた朝の光が差し込んできたら、起き上がって同じことを繰り返す。 アーメン。 もう一度言おう、アーメンと。

愛を待ち焦がれながらも、現実には生きるための金を必死に稼がなければならない。 そう、サイレンが街の子守唄を歌い、教会の鐘の音や屑屋が車のフェンダーを叩き潰す音が入り混じった街で。
そこでは退役軍人はかつての戦いの夢にふけり、人々は信号待ちのひとときにまどろみ、子供達は無表情にアイスクリーム屋を待ち受ける。 そんな街の涼しい夕暮れの中をさまよい歩くふりをしよう。 全ての夢や希望はそこで始まり、そして終ってしまうのだから。

神様、お救い下さい、私の様に自分を偽って生きている者を。 かつては若く力に満ち、そして敢え無く敗れ去ってしまった者を。
そこにおられるのですか。 さあ、偽りし者のために祈って下さい。
神よ、おられるなら私を救ってください。" (The Pretender/written by Jackson Browne/高崎勇輝訳)

アルバムのジャケットでジャクソンはロサンゼルスのダウンタウンを歩いている。ウェスト・コーストと言っても、陽光に包まれたビーチではなく、白人、黒人、ヒスパニックがそれぞれの生活を営む汚れた街をジャクソンはシリアスな表情で歩いている。
スコット・”ザ・グレート・ギャッツビー”・フィッツジェラルドとジャクソン・ブラウンは村上春樹がフィッツジェラルドを評した表現を借りるなら、その「志の高貴さ」において、そしてその「結末の悲劇性」において共通性があると僕は思う。  

そして彼は今も一人、唄い続けているのだ。 

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