PAUL SIMON GREATEST HITS, ETC.
(ポール・サイモン・グレーテスト・ヒッツ・エトセトラ)

Paul Simon

Paul Simon Greatest Hits, etc.

Slip Slidin' Away
Stranded In A Limousine
Still Crazy After All These Years
Have A Good Time
Duncan
Me And Julio Down By The School Yard
Something So Right
Kodachrome
I Do It For Your Love
50 Ways To Leave Your Lover
American Tune
Mother And Child Reunion
Love Me Like A Rock
Take Me To The Mardi Gras

1977年
CBS

ポール・サイモンはサイモン・アンド・ガーファンクル(S&G)という人気デュオを解散した後、着実に自らのキャリアを積み重ねてきた才人である。 元々はニューヨークという街に住むインテリな青年であり、短編小説の様なちょっと気の利いたストーリーを唄にするのが得意なシンガー・ソング・ライターなのだが、ある時はフォルクローレのサウンドを取り入れ、南部のマッスル・ショールズのミュージシャンを起用し、そしてアフリカのミュージシャンともコラボレートする等 、鞄に詩を詰め込んで世界を旅する放浪詩人の様な自由さを持ち合わせているのだ。

77年にリリースされたこのベスト・アルバムは、彼のソロ・キャリアでの最初の頂点とも言うべき時期の集大成である。本来はベスト・アルバムではなく、「時の流れに」等のオリジナル・アルバムを採り上げるべきなのだが、今回このアルバムを選んだのは、これが実にコンパクトに彼の魅力を捉えていること、そして他のアルバムではあまり聞けないテイクを収めているからなのだ。

前者という意味では、このアルバムはシングルとしてのみリリースされた"Slip Slidin' Away"と、彼の代表作の一つである「時の流れに」のタイトル曲である"Still Crazy After All These Years"、そして彼のS&G以降の最初のソロ・アルバムからの"Me and Julio Down BY The School Yard"(僕とフリオと校庭で)が挙げられる。どれもサウンドの洒脱さ、そして「詩」として完成された歌詞と、彼の持ち味が生きている名曲である。

"滑って流されていく。 滑って流されていく。 そうさ、目指すものに近づく程、滑って流されていく んだ。

男がいた。僕の故郷から来たやつさ。 彼は女への情熱に身を焦がしていた。 彼は言った。 'デロレス、君への愛があまりに強いので、自分がバラバラになってしまいそうで怖いんだよ。'

滑って流されていく。 滑って流されていく。 そうさ、目指すものに近づく程、滑って流されていくんだ。

女がいた。結婚している。彼女は自分の人生をこんな風に語っていた。 '良い日っていうのは、雨が降らない日ね。そして悪い日ってのは、ベッドの中で起こったかもしれなかったことについて考える時かしら。'"

滑って流されていく。 滑って流されていく。 そうさ、目指すものに近づく程、滑って流されていくんだ。
 (Slip Slidin' Away/written by Paul Simon/高崎勇輝訳)

"昨日の夜、道端で昔の恋人に出くわした。彼女は「会えて嬉しいわ」と言い、僕は微笑んだ。そして僕らはビールを飲み、昔話をした。時が経っても、まだイカれているのさ。

僕はそれ程社交的じゃない。昔のやり方にこだわり勝ちなんだな。耳元で囁かれるラブソングに踊らされる程バカじゃないけど、時が経っても、まだイカれているのさ。'"
 (Still Crazy After All These Years/written by Paul Simon/高崎勇輝訳)

"Still Crazy After All These Years"では、間奏にサックスがフィーチュアされている。オリジナルはマイケル・ブレッカーで、やっぱり彼のソロが最高である。ライヴではいろいろなサックス・プレイヤーが自分の爪痕を残そうと挑み、ポールはいつもソロの終わりに右手を挙げて、オーディエンスの拍手を促す。これもまた素敵な瞬間だ。

このアルバムでは、ライヴ・テイクが2曲収められている。"Duncan"と"America's Tune"がその2曲で、このテイクはスタジオ録音を凌駕するものである。
"Duncan"は既発表のライヴ・アルバムからの収録で、フォルクレーレのグループ「ウルバンバ」がポールのギターと共に演奏を担当している。

"隣の部屋でカップルが派手にイチャついている。夜通しヤルつもりらしい。 一眠りしたいんだけど、モーテルの壁が薄すぎるんだ。リンカン・ダンカンが僕の名前。そしてこれは僕の唄。(略)

駐車場で女の子が聖歌を唄い、聖書を朗読していた。 僕は彼女に、行くあてもないことを話し、そして彼女は僕にペンティコストについて教えてくれた。そして僕 に救いを見出したのさ。

その夜遅く、僕は懐中電灯をもって彼女のテントに忍び込んだ。 そして僕の童貞は失われたんだ。彼女は僕を森へ誘い、「ああイキそう、凄くイイわ」といった。そして僕らは犬のように交わった。交わったんだ。"
 (Duncan/written by Paul Simon/高崎勇輝訳)

この歌は、S&G時代の"Boxer"や"America"と同じく少年が大人になる過程を歌っている。その気恥ずかしいような繊細さは、思春期の少年のみに許されるものなのではないだろうか。 丁度サリンジャーが「ライ麦畑」でホールデンを通して「成長という名の喪失」を語ったように。

それから何よりも、このアルバムの白眉は"America's Tune"である。この歌はポールが21世紀に至るまで唄い続け、S&G再結成の際には必ず採り上げられるレパートリーである。そしてこのライヴ・テイクは、おそらくこのベスト盤にのみ収録されており、そして最も印象的な演奏である。

ポールは静かに、そして穏やかな決意を込めて、このアメリカの歌を歌う。 

"僕らはメイフラワー号と呼ばれる船に乗ってやってきた。 そして僕らは月へと旅する船に乗っている。僕らは この最も不確かであると言われる時代に生き、そしてアメリカの歌を唄う。 でもいいさ、それでいいんだ。永遠の祝福を受けられる訳じゃない。明日はまた働かなきゃならなくて、僕は少し休みたいんだ。そう、ほんの少し休むこと、それが僕の望む全てなんだ。"
 (America's Tune/written by Paul Simon/高崎勇輝訳)

彼がこの歌を書いた時から既に30年が流れ、そしてアメリカはまだ彷徨い続けている。 
僕も、ささやかな休息を求めている。 明日また歩き続けるために。

 

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