CLOSE TO THE EDGE
(危機)

YES

Close To The Edge

Close To The Edge
I. The Solid Time Of Change
II. Total Mass Retain
III. I Get UP I Get Down
IV. Seasons Of Man


And You And I
I. Cord Of Life
II. Eclipse
III. The Preacher The Teacher


Siberian Khatru


1972年
Atlantic
Paintings and LOGOs by RogerDean

「プログレ=大げさなロックのこと」と定義していたのは渋谷陽一だが、イエスも確かにその中に含まれるべきバンドである。何せアルバム1枚の中に3曲しか入っておらず、ライヴ・アルバム「イエス・ソングス」に至っては3枚組なのである。

イエスのサウンドは、プログレッシヴ・ロックの中でもとりわけクラシカルな傾向が強く、インプロヴィゼイション(即興)というよりはかっちりと構築された音の世界が印象的である。これは、リック・ウェイクマンの華やかなキーボードとそれにも増してイマジネーション豊かなスティーヴ・ハウのギター・ワークによるところが大きい。彼のギターは、紙一重のギリギリこっち側で踏みとどまっている様なところがあり、普通のバンド・サウンドの中に入ってしまうとかなりつまんない(あるいはうるさい)ものに成り下がってしまうのだが、イエスのシンフォニックな音の洪水の中では、水を得た魚の様に色彩感溢れる渓流となる。そしてジョン・アンダーソンのヴォーカルと幻想的な歌詞は、この中でくっきりと一本の柱を浮かび上がらせるのだ。これ は音が織り成すタペストリーに他ならない。

"境界線は近い。角を曲がればすぐだ。 終わりは近い。川を下れ。
季節は過ぎて行く。 私は目覚め、そして眠りにつく” (Close to the edge/by John Anderson-Steve Howe/高崎勇輝訳)

曲のクライマックスで、チャーチ・オルガンの響きの中でジョンが繰り返す「I get up. I get down」はある種崇高な美しさを醸しだしている。彼のヴォーカルは情熱や哀愁というものとは全く無縁な、浮遊感を感じさせるものがある。

イエスは元々はコーラスを重視した、幻想的ではあるが「壮大」なロックではなかった。オリジナル・メンバーはジョン・アンダーソン(Vo)、クリス・スクワイア(Bass)、ビル・ブラフォード(Dr)、そしてピーター・バンクス(G)にトニー・ケイで、やがてピーター・バンクスに代わりスティーヴ・ハウ、トニー・ケイに代わりリック・ウェイクマンが参加したことで、所謂黄金期と言われる陣容が揃う。つまり、スティーヴとリックがこのバンドにシンフォニックな要素を持ち込んだといえるのだろう。 クラシカルなロックというのは、クラシックの曲を演奏したり、ストリングスをバックにつけることではない。ビートに依存せず、空間の広がりを重視することにあるのだ。

このメンバーは、名曲「ラウンドアバウト」を含む「こわれもの」でブレイクし、続くこの「危機」で名声を確立する。その後、ビル・ブラフォードが脱退してアラン・ホワイトに代わった後は頻繁にメンバーの交代が行われ、「ロンリー・ハート」での再ブレイク等を経て現在に至る訳だは、それはまた別の話...。

シンセサイザーの進歩やメイン・ストリームのロック自体がジャズやクラシックの要素を既に取り込んでしまった現在では、プログレというスタイル自体は過去のものと言わざるを得ないのだろうが、それでもこのアルバムはその美しさ故に今もまだ聞かれる価値はあると思う。 僕はプログレ・ファンの耽美主義的な部分(インテリっぽさ)に必ずしも組みする訳ではないが、この「危機」はそう言うスノビッシュな向きでなくても楽しめるアルバムなのだ。

 

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