BRIDGE OVER TROUBLED WATER
(明日に架ける橋)

Simon & Garfunkel

bridgeovertroubledwater.gif (118156 バイト)

Bridge Over Troubled Water
El Condor Pasa (If I Could)
Cecilia
Keep The Customer Satisfied
So Long, Frank Lloyd Wright
The Boxer
Baby Driver
The Only Living Boy In New York
Why Don't You Write Me
Bye Bye Love
Song For The Asking

1969年
Columbia
Designed by Tony Lane
Photographs by Peter Powell, Abbott Mills

僕が音楽を聴き始めた80年代前半サイモン&ガーファンクルは洋楽を聴き始めた少年のおそらく誰もが耳にするアーティストの一人だった。セントラル・パークでの復活コンサートからまだ日が浅く、そのライヴ盤はしばしばレコード屋の店頭でかけられていた。TVのCMではスカボロー・フェアが使われ、高校に入り遅まきながらギターを手にした僕は彼らのベスト盤を大切に聴いていた。

60年代という時代は、乱暴な言い方をすると黒人音楽から派生したロックン・ロールと白人音楽であるカントリーから派生したフォーク・ミュージックが融合して「ロック」というジャンルが作られつつあったのではないかと思う。ビートルズやストーンズはR&RやR&Bから始まり、ボブ・ディランやこのサイモン&ガーファンクルはフォークをそのルーツとしている。彼らが歩くその後ろに道は出来ていった。

ボブ・ディランがアレン・ギンズバーグやジャック・ケルアック等同時代のビートニクス詩人と肩を並べようとしていたのに対し、ポール・サイモンの詞には、ロバート・フロストやエミリー・ディッキンソンの影響が感じられる。同時代性がないというのではないが、もう少し内向的な感じがするのである。 ディラン、ケルアックやギンズバーグが自ら怒りを路上に叩きつけるのであるとすれば、ポール・サイモンはサリンジャーの様に少年の口を借りてこれを表現させようとする。ある種インテリっぽいのである。

実は僕のフェイバリット・アルバムは「ブックエンド」なのだが、"Bridge Over Troubled Water"と"The Boxer"が納められているこのアルバムも捨てがたい。

"Bridge Over Troubled Water"は、ラリー・ネクテルの華麗なピアノで始まるバラードで、詞・曲共にポール・サイモンの作品であるにも係らずアート・ガーファンクルの生涯通しての代表曲となっている。発表から35年を経た今になっても人々はアートがステージに上ると、この曲を待ちうける。
エンディングで高らかに歌い上げる時、アーティはあたかも祈りを捧げる祭祀の様にすら見えるのである。 ポールはこの曲であまりにアーティがもてはやされるので、デュオ活動中からかなり面白からぬ想いをしていたらしく、ステージ上では(おいおい、この曲は僕が作ったんだぜ)と思っていたらしい。
ソロになったポールは、この曲を本来の趣旨であるゴスペル色を更に強めてアレンジし、ステージで披露していた。
2003〜04年の再結成ツアーでも、ポールは1コーラスで自らソロ・ヴォーカルを取り、それはそれで喝采を浴びていたが、やはり最後はアーティのロング・トーンがオーディエンスの頭上に君臨した。

"進んでいくんだ、輝く乙女よ。このままずっと。今こそ君の輝く時、全ての夢は直ぐそこまで来ている。ほら、そこで輝いている。
もし仲間が欲しいのなら、僕がすぐ後について行くよ。
荒れ狂う海に架ける橋の様に、君の心を癒してあげよう。
荒れ狂う海に架ける橋の様に、君の心を癒してあげよう。" (Bridge Over Troubled Water/written by Paul Simon/高崎勇輝訳)

このアルバムは、ニューヨークでの孤独を詩的に描くという意味では、ビリー・ジョエルの「ストレンジャー」と近いものがあるが、ポール・サイモンの描く登場人物は、より少年の面影が強いと思うのだ。例えば"The Boxer"はまさに少年の歌である。この曲はアリスの「チャンピオン」の様にボクサーそのものの生き様を描いたドラマではない。都会で孤独に苛まれる少年がそれでも生きている自分をボクサーに なぞらえているのである。

"日雇い労働者並の給料を求め、僕は仕事を探し続けた。
でも誰も声をかけてはくれない。あったのは7番街の娼婦の誘いだけ。
正直に言うと、本当にさびしい時には、彼女達にぬくもりを求めたこともあったのさ。

そして僕は冬服を広げながら、何処かに行ってしまいたいと思う。家に帰りたいよ。
ニューヨークの冬が僕を痛めつけない様に。
家へ連れて行っておくれよ。

開拓地に佇むボクサーは、闘いがその生業。
彼を打ちのめし、切り刻んだ打撃、傷つけられた怒りと恥かしさから「もうやめる、もうやめるんだ」と泣き叫んだこと、
その全ての記憶を胸に今も闘い続けるのだ。" (The Boxer/written by Paul Simon/高崎勇輝訳)

この他、後のポールのエスニック音楽への傾倒の切り口となった"El Condor Pasa"(コンドルは飛んでいく)、アコースティック・ギターによるロックンロールの名曲"Baby Driver"等キャッチーな魅力の沢山詰まったこのアルバムだが、実はCD時代になり僕は時々変な聴き方をしている。CDをリピートにして、"So Long, Frank Lloyd Wright"を延々とかけ続けるのである。

"さよなら フランク・ロイド・ライト。
毎晩、朝が来るまで唄い明かそうとしていたね。あんなに楽しかったことはなかったよ。 
さよなら、さよなら、さよなら、さよなら" (So Long, Frank Lloyd Wright/written by Paul Simon/高崎勇輝訳)

この曲を聴いていると、夜が一層静かになり、眠っていた昔の記憶がひそひそと話し始める様な気がしてくる。僕は少しだけウィスキーを飲む。そして耳をすましてみるのだ。

 

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