BOOKENDS
(ブックエンド)

Simon & Garfunkel

Bookends

Bookends Theme
Save The Life Of My Child
America
Overs
Voices Of Old People
Old Friends
Bookends Theme
Fakin' It
Punky's Dilemma
Mrs. Robinson
A Hazy Shades Of Winter
At The Zoo

1968年
Columbia
Photographs by Richard Avedon

サイモン&ガーファンクル(S&G)のアルバムと言えば「明日に架ける橋」が取り上げられることが多いが、その前にリリースされたこのアルバムは、A面は人間の人生をテーマにしてコンセプチュアルな構成を取り、B面ではシングルで発表された曲を収録している。 

タイトルの「ブックエンド」とは、公演のベンチに並んで座る老人達をブックエンドに擬えたものだ。 飛び降り自殺をしようとする子供、「アメリカ」を求め旅をする若いカップル、倦怠期を迎えた夫婦等、当時のアメリカの「人生」を切り取ろうという試みであった。この中で最も成功を収めているのはやはり"America"だろう。


"'恋人になろうよ。僕らの幸運を一緒にしよう。' '私、鞄の中に不動産を少しもってるわ'

そこで僕らはタバコを一箱と、"ミセス・ワグナー"のパイを買って、アメリカを探しに出かけた。 

'キャシー ' 僕はピッツバーグでグレイハウンド・バスに乗り込みながら言った。 '今ではミシガンにいた頃が夢みたいだよ。サギノウからここまで来るのにヒッチハイクで4日もかかったんだ。僕はアメリカを探しにきたんだ。' (略)

'キャシー、僕はどうしたらいいかわからないんだ。' 彼女が眠っているとわかっていたけど、僕はつぶやいた。 '虚しくて、胸が痛くて、しかも何故だかわからないんだ。'

ニュージャージー・ターンパイクでは、車の数を数えていた。 彼らは皆、アメリカを探しにやってきたんだ。 そうさ、僕らは皆アメリカを探しにきたんだ。"
 (America/written by Paul Simon/高崎勇輝訳)

第二次世界大戦を経て、豊かさを謳歌していたアメリカが、ヴェトナム戦争を契機に自信を喪失していく。それも若い世代から先に蝕まれていく。そんな時代の空気を、ポール・サイモンはウェットなハーモニーに乗せて唄にしたのだ。
たぶんこの唄は、年齢というよりは、「喪う」ということを知っている者に、よりその哀しさが沁みるのではないだろうか。そんな気がする。 

僕はS&Gが2004年に行った"Old Friends II Tour"を見るために、ニューヨークからフィラデルフィアまで車で行ったことがある。その時にニュージャージー・ターンパイクでこの唄を思い出していた。 そう、僕は1989年に始めてアメリカの地を踏んで以来、何回もこの地を訪れた。この時は既に9年をニューヨークで過ごし、そろそろこの地を離れようとしていた。先が見えない位どこまでも続く路を走りながら、随分遠くまで来てしまったんだなぁと考えていた。高校生の時に初めてこの唄を聴いてから、今までに随分いろいろなものを得て、そしてその多くを失ってしまったのではないかと考えていたのだ。それは口に出して数え上げると大したものではないのかもしれないけれど。

"年寄りが二人、公園のベンチにブックエンドのように対になって座っている。 風が芝生の上の新聞紙を巻き上げ、彼らの足元に吹き寄せる。

年寄りが二人、冬空の下、並んで座っている。 オーバーコートの中に埋もれて、日の光を待ちわびている。 都会の騒音が樹々の間をすり抜け、彼らの肩に埃のように降り積もる。" (Old Friends/written by Paul Simon/高崎勇輝訳)

"それは過ぎし日々、そして何という日々だったろう。 それは...純粋な日々、疑うことを知らなかった頃。 それはずっと昔のことだったに違いない。 写真の中に、想い出は閉じ込められて...それが残されたもの全て...。" (Bookends Theme/written by Paul Simon/高崎勇輝訳)

若者は傷つきやすいという。確かに、かつて僕らは今覚えばどうでもいいようなことにも一生懸命だった。 それが、埃のように降り積もるいろいろなものに、少しずつ身動きが取れなくなっていく。変革を求めながら、目を閉じる方を選ぶようになる。そして、灰色の空の下、冬景色に溶け込んでいく。 アート・ガーファンクルは老人達の会話をテープに録音し、"Voices of Old People"として収めている。 そしてポールは大ヒット曲"Mrs. Robinson"で、次のようなオマージュをかつてのヒーローに捧げている。

"'どこへ行ってしまったの、ジョー・ディマジオ? みんながあなたを求めているのに。'

'何をおっしゃってるんです、ロビンソンさん?。 飛ばし屋ジョーなんてとっくにいないんですよ。'" (Bookends Theme/written by Paul Simon/高崎勇輝訳)

僕らは多かれ少なかれ、そして善きにせよ悪しきにせよ想い出に囚われて生きている。そうじゃありませんか? 
ポールはそうした想いをすくい上げて、唄にしている。 それが僕らを静かに、だけど激しく揺さぶるのではないだろうか。

 

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