ALONE AGAIN
(アローン・アゲイン)

Gilbert O'Sullivan

Alone Again

Alone Again (Naturally)
Get Down
Ooh Baby
Nothing Rhymed
If You Ever
Miss My Love Today
Happiness is Me and You
Clair
Ooh Wakka Do Wakka Day
Why Oh Why Oh Why
I Don't Love You But I Think I Like You
A Friend Of Mine
Who Was It?
Christmas Song

1986年
Kitty Records
Art direction & design: HASUI/Photo:Manabu Yamanaka

ギルバート・オサリヴァンは、70年代前半にいかにも英国らしい雰囲気を漂わせていたピアノ・マンである。ポール・マッカートニーとビリー・ジョエルをつなぐという意味では、エルトン・ジョンもそうだが、ポップ・スターとしてブレイクしていったエルトンに対し、あくまで密やかにピアノを爪弾いていた男がギルバート・オサリヴァンなのである。

彼のアルバムは本国イギリスでも全部をCDで手に入れるのは難しく、アメリカではほとんど忘れられている。 実際のところ、オリジナル・アルバムを律儀にCDリリースしているのは日本なのである。このアルバムも日本で編集されたベスト盤であるが、なかなか良いアルバムだしオリジナル盤を持っていないので、これを紹介することにした。

彼の唄の持ち味は洒落たコード進行とヒネッた歌詞にある。二重否定を散りばめた様な歌詞は、日本語にするのがとても難しい。日本盤ライナーの対訳だって信用出来ない位なのである。彼の代表作であり、オサリヴァンの名前は知らなくてもこの曲は知ってるという 人の多い名曲"Alone Again"は、ただボケッと聞いていると恋人と別れて一人ぼっちになった、というラヴソングだと思ってしまうところだけど、実は結構捩れた唄なのである。

"もし遠からずこの辛さが和らぐ様なことがなければ、僕は必ず手近な塔に登り、てっぺんから身を投げてやる。打ちのめされるってことがどんなことか見せ付けてやるために。
 教会で人々が「酷過ぎる。花婿が置いてきぼりにされるなんて。ここに居ても仕方ないから帰った方が良いみたい。」と囁き交わす傍らで、僕はひとり立ち尽くす。
 そして僕も家に帰ったよ。いつのまにかまた、一人ぼっちになった。” (Alone Again/by Gilbert O'Sullivan/高崎勇輝訳)

これは多分に「イギリス的」な表現なのではないだろうか。哀しみは声高に語られることなく、ドラマティックなサウンドで盛り上げられることもない。ピアノをメインとしたアコーステック楽器の演奏で、淡々と囁かれる。哀しくないわけじゃない、でも泣き叫ぶなんて出来る訳ないじゃないか。

"良いもの、悪いもの、賭けるに値するものなどなにもない。得るもの、生まれ続けるもの、失われるものもない。 証拠より確かなもの、若さよりしなやかなもの、時より古いもの、ワインより甘いものもない。 病いも向こう見ずも絶望さえも眼を眩ますことは出来ない。僕が口に出来ないこと、今日故にあるものも、そして韻を踏むものも何もない” (Nothing Rhymed/by Gilbert O'Sullivan/高崎勇輝訳)

陳腐な表現をすれば、彼はピアノを弾く詩人なのだ。来生たかおがギルバート・オサリヴァンの熱烈なファンであったことは良く知られている。オサリヴァンやニルソン、そしてランディ・ヴァンウォーマーといったタイプのアーティストは自分だけで大事にしておきたい、秘密の宝物みたいなところがある。時々取り出して鳴らしてみるオルゴールの様に。

ジャケットは編集盤用に日本で製作されたものだが、とても良くオサリヴァンの雰囲気を伝えていると思う。大人になりきれなかった少年は、70年代後半に姿を消す。90年代に入り、主に日本での人気を支えにアルバムを作成、ツアーも行った。それは心温まる話でもあり、そして僕らがもう子供じゃないことに否応なしに気付かされる旅でもあったのではないだろうか。

 

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