ABBEY ROAD
(アビイ・ロード)

The Beatles

Abbey Road

Come Together
Something
Maxwell's Silver Hammer
Oh! Darling
Octopus's Garden
I Want You (She's So Heavy)
Here Comes The Sun
Because
You Never Give Me Your Money
Sun King
Mean Mr. Mustard
Polythene Pam
She Came Through The Bathroom Window
Golden Slumbers
Carry That Weight
The End
Her Majesty

1969年
Apple Records/Parlophone
Photographs by Iain MacMillan

ビートルズの事実上のラスト・アルバムは僕のフェイバリット・アルバムの一つでもある。このアルバムで聞けるギターにはテクニックが巧いとか、センスが良いとか、そういう表現は似つかわしくない。 一言で言えば、Magic(魔法)なのだ。

A面("I Want You"まで)は、メンバー各自の個性が出た名曲が並べられている。 イントロだけでも有名な"Come Together"はメンバー中最も尖鋭的だったジョン・レノンの面目躍如たる曲だし、"Something"や"Octopus's Garden"はそれぞれジョージ、リンゴの代表曲である。

映画"Let It Be"を観た人はそのセッションに絶望的な閉塞感が漂っていたのを思い出すはずだが、この最後のアルバムは実に新鮮なアイディアが溢れている。思えば60年代はロックがロックン・ロールとリズム&ブルースと言う両親から一人立ちをしていく過程だった。ビートルズはこの成長の過程でクラシックやサイケデリック、インド等の民族音楽といった様々な要素を加えた斬新な音を作ってきた。
しかしこの70年代の扉を開く時期にはロックの中におけるストリームとして、ハード・ロックやプログレッシブ・ロックという新たなジャンルが登場してきた。
そんな時代にビートルズが作り出したサウンドの凄さはスタイルとしての新しさではなく、既存のルールでどんなに凄いことが出来るかということだったのだろう。クラシック音楽で言えば、複雑な和音による現代音楽ではなく古典的な、例えばベートーヴェンの交響曲という曲を題材にどれだけ新鮮な感動を作れるのかということと似ているかもしれない。 

サウンド的には当時出てきたシンセサイザーを早くも導入しているが、それ以上にギターの存在感が感じられる。
ジョージ・ハリスンやポール・マッカートニーはいわゆるテクニシャンと言われることは決してないプレイヤーだが、例えばSomething"や"I Want You"でのポールのベース・ラインは曲から浮き上がることなく、その確かな刻印を聞くものの耳に残す。 ジョージの"Here Comes The Sun"の繊細なアコースティック・ギターやB面のメドレーにおけるオブリガード(ボーカルに絡むギターでのメロディ)の質感も、テクニカルではあるが心に残らないそこらの早弾きとは一段違うレベルに位置している。

単独の曲としては"Come Together"や"Something"等アルバム前半の曲が知られているが、実は圧巻とも言えるのは"You Never Give Me Your Money"から"The End"までのメドレーである。これはもはや「組曲」というべきものである。録音は別々になされ、それをテープ編集で繋いでいる。スローな曲の美しさ、スピーディな曲の疾走感共に聞いているだけでわくわくしてくる。 

メドレーの最後はビートルスのレコードで唯一のリンゴのドラム・ソロの後、ポール・ジョン・ジョージによるギター・ソロの掛け合いが入りそして"The End"のこのフレーズで壮大に締めくくられる。

"つまるところ、君が得られる愛は、君が与える愛に等しい" (The End/written by Lennon & MacCartney/高崎勇輝訳)

この部分の美しさだけでもこのアルバムは聞く価値がある 。
ポールがこのフレーズを書いた時に彼の中でどの位意識があったかはわからないが、ビートルズという「マジック」からの最後の「Love」のメッセージだったのだ。

アルバムの最後にオマケの様な形で入っている"Her Majesty"は元々このメドレーの中の一曲で"Mean Mr. Mustard"と"Polythene Pam"の間に入っていた。 編集の際にカットされたが、エンジニアがカットしたテープを最後にくっつけておいたところ、ポールが気に入ってアルバムに収録されたというエピソードがある。曲の頭のドーンという音は"Mean〜"の最後の音で、曲の最後が切れているのは"Polythene Pam"に飲み込まれているためである。ビートルズのブートCDに収録されているアウトテイクスでは、"Her Majesty"の完全版やメドレーの中に組み込まれているヴァージョンを聞くことが出来る。

アビイ・ロード・スタジオの側で撮影された4人のジャケット写真は実にいろんなところでアレンジされて使われている。60年代半ばのサイケな時代を抜け出したクールなジャケットである。 ポール・マッカートニーも90年代に入り「Paul is Live」というライヴ・アルバムでこのパロディをやっている。 1982年にTVのCMで「プリーズ・プリーズ・ミー」が流れた時は『ビートルズ・エイジのパパとママ』という子供のナレーションと共におとうさん、おかあさん、ボクと犬が横断歩道で同じポーズを取っていた(あれは不動産会社のCMであったか)。それを数回見た僕はシングルを買いにレコード屋に走ったのだった。 「カモン・カモン・プリーズ...」と呟きながら。そしてそこから僕の人生は大きく変わり始めるのである。

 

TOPへ

クールなディスク・レビューへ戻る

本コラムは非営利の個人である高崎勇輝がレコードの批評を目的として作成したものです((c) 2002 by 高崎勇輝 All rights reserved)。
レコードの歌詞・ジャケット写真については、日本国著作権法第32条(引用)に留意の上この範囲内に収まるものと考えておりますが、もし関係者
の方にご 意見がございましたら こちら までご一報頂ければ幸いです。
This column was written by  Yuki Takasaki, as non-commercial basis ((c)2002 by Yuki Takasaki All rights reserved).
Takasaki pays attention to Japanese Copyright Law Sec.32 (Quotation), and believes the Quotation in this site is within the allowance based
upon the album review. But if  the participant of this copyright materials has different opinion, please feel free to contact Yuki Takasaki.